シャツとソックスの日記

@shatsutosokks の日記帳です。

2023/01/09「英語のスペリングの謎」

3連休だし、さすがにどこかに行きたい! と思ったので、今日は図書館に行ってきた。思ったより寒い。3月並の気温じゃないのかよ!
 
図書館で英語コーナーをブラブラしていたら、「スペリングの英語史」という本が目に入ってきた。ぱっと見で新しそうだったし(実際その通りで、2017年に出版されている)、借りてみた。帰宅後読んでみたのだが、面白かったので一気に読破してしまったぞ。
 
本書の記述で特に面白いポイントは2つある。
1つめが、英語話者ですらスペリング、すなわち単語の綴りには苦労しているということ。
私も英語に初めて触れた時から、Friendの i ってなんのためにあるんだよとか、GerogeとGetって同じGの文字なのになんで発音がこんな違うんだよとか、いろいろな非合理っぷりにイライラしていたのだが、(程度の差はあれど)同じように英語話者もスペリングの複雑さを問題視し、改革しようという試みはずっと昔からあった。割と有名な改革案の1つが、ショー文字だ。

ja.wikipedia.org

 
2つめは、それらの改革は1つか2つの例を除いて、ほとんど失敗しているということ。
それは人々が愛着や保守的な気持ちから改革を拒否したというのもあるし、正しく綴れる能力がその人の社会階層を見分けるのに使えなくなる、という実際上の理由もあるようだ。本書の中では、正しく綴れないことでバッシングされる例をいくつか知ることができるぞ。
ちなみに私も、もっと英語の文字を増やして発音と文字が対応するようにしたらいいのになあと思っていたのだが、どうやら英語の歴史は、私と同じように考えた人の失敗の歴史でもあるようだ。
 
あと、英単語の綴りが覚えられない……なんか規則とかないのかな? と思ってこの本を読むのはやめたほうがいい。この本は、どうして英語のスペリング体系がこんなふうになってしまったかを教えてはくれるが、英単語を正しく書くやり方を教えてくれるわけではない。
 
どんな本なのかは、訳者のブログ記事、特に#3080のほうに書かれているのだが、ここでも自分なりに説明しておく。長くなってしまったが。
 
第1章は導入となっており、スペリングを取り巻く状況が語られる。
例えば、アメリカでやっているスペリング・コンテストとか、アメリカの元・副大統領 ダン・クエールが、ポテト(potato)のスペルを正しく書けずマスコミから批判された事件や、昔の作家の草稿にスペルミスがあったことで英語を正しく書いていない! と批判された事件を取り上げている。
スペリングを間違えるとこのような反響を引き起こすのはなぜなのだろう? という問いかけから、スペリングの歴史の話が始まる。

イグノーベル賞受賞者の一覧 - Wikipedia

ちなみに、クエールは教育の必要性を示したとして1991年にイグノーベル賞をもらっている。
 
第2章は、文字の体系について、英語やアルファベット以外の文字にも触れながら説明が行われる。当たり前だが、英語の表記で使われるアルファベット以外にもいろいろな文字がこの世には存在する。漢字だってそうだし、1, 2, 3……のような数字もそうだ。なんなら架空の文字だってある。そうした、いろいろな文字体系の中で、英語とアルファベットが持つ特徴は何か? が語られるのがこの章。
 
第3章から第6章は、古英語(だいたい紀元500年くらい)から近代(20世紀)までの英語のスペリング史をザザザっと説明してくれる。英語がどのような言語から単語と綴りを取り入れてきたのか、それによって英語がどう変わってきたのか、そういった流れがよくわかる章だ。
個人的には、シェイクスピアの劇のワンシーンの引用が興味深かった。著者の説明を読んだ上で単語の発音を知っているなら、昔と今とで綴りが違っていても「こういうことかな?」と推測できるようになるよ、という一例だったが、シェイクスピアの原文が読めるとは、とちょっと感動した。
 
第7章はアメリカにおける英語スペリング史。アメリカはスペリング改革を成功させた、数少ない場所でもあるという話。そしての成功は、アメリカのナショナリズムのためになったものでもあるという。
 
第8章はインターネット時代の英語スペリング、すなわちネットの普及が英語スペリングにどのような影響を与えたのかが語られる。
というより、ネットの普及が英語スペリングに影響を与えていない、ということが語られている。
 
著者はオックスフォードの英語学教授らしいが、専門家らしくちゃんといろいろ調べているんだなあと読んでいる時は思った。巻末にもっと興味がある人向けの本も紹介してくれているのも嬉しい。