今日はこの本を読んだ。
その繁栄と衰退の歴史をまるっと見てみよう、というコンセプトの本だ。具体的には、エリザベス1世の時代(16世紀)から、スエズ運河撤退(20世紀)までを視野に入れている。そんな、とてもスケールの大きな本。
まあ、スケールが大きいからといって、面白いわけではないんだけど。
そう、この本は面白くない。今年読んできた本の中でも、1番つまらなかった、と自信をもって断言できる。
なんでつまらないんだろう、というのを考えてみたけど、だいたい、
・著者の、結果論で歴史の出来事を判断するスタンスが気に食わない
・歴史の出来事への解釈が怪しい
・文章の論理が説得的でない
あたりが気になってこの評価になったかなー
1番目の理由は、この本が歴史を語るときの語り口が、とても私には受け入れられないということ。
少しでもまじめな歴史の本を書こうとしたならば、結果論で語るのはやめるべきだ。政策の目的という意図とその結果を併せて評価するべきだと思う。
結果的に「成功」したと著者が考えているにすぎない二枚舌外交を称賛して、結果的に失敗した三枚舌外交をボロカスに言うのはどうなんでしょう。
もしかしたら舌の枚数が原因で評価が違うのかな? 2はおっけーだけど3はだめ、的な。気に食わない。
2番目の話で言うと、この本でイギリスの「成功」とされていることって、実はそんなに成功じゃないやつも混じっていないか、というのが気になる。
たとえばエリザベス1世の外交SUGEEとして取り上げられているのでいうと、フランドル地方(現在のオランダ・ベルギーの一部)がカトリックの勢力下に落ちるのを防ごうとした1572年のブロワ条約とか、成功例として取り上げるには弱すぎるのではないか。結局1580年代にパルマ公がネーデルラントにやってきて、フランドルに関してはかなりの程度回収されているし。
ダンケルクだって、手放しで大成功! と称賛できるようなものではない。人は海峡を渡れても、装備はほとんど渡れなかったし。なんで成功だと著者が考えているのかよくわからない(その代わり、著者の情緒にあふれるお言葉はたっぷり読める)。
結果論で評価している割に、その「結果」についての考え方も妥当じゃない気がするのはどうなん、という話。
最後のやつは、文章中に出てくることの根拠が弱いってこと。私が上でいった1番目2番目の話は同意しない人がけっこういてもおかしくないけど、ここは多くの人が同意できるのではないか。
たとえば、本書でイギリスが衰退した決定的要因の1つとして取り上げられている部分。具体的には、1890年代から1900年代にかけてのボーア戦争で失敗したイギリスが、アメリカに対しては過剰に妥協し、ドイツに対しては過剰に敵対した(と、著者が考えている)点が取り上げられている。
これが第一次世界大戦、ひいては大英帝国の衰退につながったと著者は指摘しているが、そういうには本書の中で根拠が足りないと思う。なぜドイツに融和をすれば世界大戦が防げたのか、という問いが当然出てくると思うが、そこは特に言及がない。そしてそれがなければ、到底納得なんてできない。
現代の目線から見て「あの時ああしていれば……」といったところで、それはオタクの妄想でしかない。「なぜ、そうできなかったのか」を探るのが歴史学の意義じゃないだろうか。
この部分以外にも「なんでそう言えるの?」という文章がたくさんあって、とても気になる。学部生のレポートかって感じ。
こんな本をありがたがって読むのはやめよう。
この本は、山本七平賞や毎日出版文化賞を受賞している本らしい。
そういう情報もあって期待して読んだだけに、本当にがっかりした。はっきり言ってまったくおすすめのできない本で、読むのは時間の無駄だ。
まあ、今日この本を読んだおかげで、その賞をもらっている本を今後読む機会があったら、警戒レベルをあげておこう、というのが学べたのはよかったかな?
もちろん、この著者の本は(万が一また読む機会があれば)警戒レベル最大で読もうと思う。
こんなにたくさん言いたいことがある本が読めたのなんて、久々だー そこは感謝してもいいかも